『イップ・マン』『ロッキー』 「今さら…」と感じられる、人種の壁を今改めて考えさせる作品

アメリカのトランプ大統領が、「一部移民受け入れ停止の大統領令」に署名をし、合わせて「経済活動が再開された時に、失業しているアメリカ人がまず職に就けるようにするためのものだ」というコメントを出している。

彼のこうした発言などは以前からさまざま物議を醸しているが、こういった発言が表に出て、かつ「アメリカ市民」を他の市民と分ける境界を明確に作るような行為を表ざたで行っているのであるから、アメリカ社会の中ではこういった人種差別というのは、裏でかなりひどいことになっていると推測もされることだろう。

もちろんトランプ大統領の場合は、政治的な戦略もあってのことだと思うが、大きな責任がある人間がこういった行為をすると、やはりそれに習うものも出てくることは想像に難くない。


果たしてその裏での状況はどのようなところか?昨年、埼玉・西川口で行われたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映された映画『陰謀のデンマーク』を思い出す。

映画『陰謀のデンマーク』あらすじと感想。衝撃の展開から結末で伝えたダイレクトなメッセージ【ウラー・サリム監督のQ&A収録】2019SKIPシティ映画祭6

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・ウラー・サリム監督作品『陰謀のデンマーク』が7月14日に上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。 (c)Henrik Ohsten /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved. そこで上映された作品の一つが、デンマークのウラー・サリム監督が手掛けた長編映画『陰謀のデンマーク』。 政治的な緊張が高まりつつある今日、デンマークで発生したある一つの事件から発生した一つの流れ、そしてその裏にある様々な人間同士の対立から、移民問題を題材に予想される様々な展開を衝撃の映像で描いたサスペンス・ストーリーです。 【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら 映画『陰謀のデンマーク』の作品情報 【上映】 2019年(デンマーク映画) 【英題】 Sons of Denmark 【監督】 ウラー・サリム 【キャスト】 ザキ・ユーセフ、ムハンマド・イスマイル・ムハンマド、ラスムス・ビョーグ 【作品概要】 スタイリッシュな映像の中に、世界的に緊張が高まっているナショナリズムの現実を映し出した、衝撃のラストまで息もつかせぬ政治サスペンスの傑作。 本作は、今年のロッテルダム国際映画祭のタイガー・コンペティション部門に選出され、その後も、ヨーテボリ国際映画祭、全州国際映画祭など多くの映画祭で上映され、高い評価を得ています。 またアリを演じたザキ・ユーセフは、本国デンマークでは俳優のみならず、TVシリーズの脚本家としても活躍しています。 ウラー・サリム監督のプロフィール (c)Cinemarche 1987年、デンマークで生まれ。イラク移民の両親のもとで育ち、2018年にデンマーク国立映画学校を卒業。プロデューサーであるダニエル・ミューレンドルフと共に制作会社Hyæne Film を設立しました。 これまでに数多くの短編映画を制作、2015年制作の『Our Fathers’ Sons』はロッテルダム国際映画祭に招待され、デンマーク国立映画学校の卒業制作『Land of Our

Cinemarche

『SONS OF DENMARK』という原題は、その名の通り「デンマークの息子」と名乗る保守派裏組織の存在をめぐって、さまざまな陰謀が交差する社会派サスペンスドラマだ。

アメリカで50~60年代に起きたアフリカ系アメリカ人公民権運動の結果、1990年代の社会主義崩壊も手伝って、男女差別など含めこうした差別的な認識、人々の意識は大きく変わったと思っていた。

しかし、どうもよくよく見るとそういった認識がどこかでくすぶっているらしい、トランプ大統領の言動からはそんなことを感じられるのだ。

確かに人間には、どうしてもそういう思いを持たなければならない宿命があるのかもしれない、自分は他人より勝っている、常に勝ち続けていなければならない、他は排除しなければ、と。

意識の中にはなくとも無意識にそういった方向に進む思考回路のルートがあるのだろう。それが他人を押さえつける悪しき方向にうまく持っていく必要が、人が生きていく中で避けられない課題としてあるのだろう。


こうした意識を感じさせる作品はあまたあるが、今回はちょっと方向を変えて「格闘技」という観点で取り上げてみたい。中国~香港のある格闘家の生涯を描いた『イップ・マン』シリーズだ。

若き日には日本軍に弾圧され、香港に移り住めばそこはイギリスの占領下であったりと、不遇の時代が長く続いたイップ・マン。

中国では彼の物語がテレビドラマ含めていろいろな作品が作られているが、最も有名なのはやはり名優ドニー・イェン主演のシリーズ作品だろう。この春に完結編となる作品公開が予定されているが、特に一作目の『イップ・マン  -序章』、二作目の『イップ・マン  -葉問』にこうしたエピソードが描かれている。


(C)2010 Mandarin Films Limited. All Rights Reserved

これらの作品は、実際には作られた国の視点が入ってしまうため、どうしても偏った視点を感じてしまいなかなか共感できないという人もいるかもしれない。  

その意味ではさまざまな視点で類似したケースの作品を見ることを、公平な視点を自身が持つということに向けてお勧めする。 

たとえば『イップ・マン -葉問』は、人によっては『ロッキー4 炎の友情』を想起する人もいるのではないだろうか。格闘技を通して二人の武闘家が対立、その裏で国と国の対立が存在する。 そして、いずれの作品も結末には、勝者がその対立の無常さを訴えるという形となっている。

両作品を並べて見ると、さまざまなことを考えかつ答えが出ないというジレンマに陥るかもしれない。しかしその「考える」という意識をもつこと自体が大事なことといえるだろう。

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